✖️:床の色と壁の色が同色に感じない。

階段室ABC

2006

 

 「色のシミュレータ」誕生前の頃のことです。

 学生会館のパブリックスペースをリフォームしたいとの依頼がありました。廊下、階段、ホールなどの内装のデザインの提案で、おしゃれな感じに…が主なご要望です。でも、私が気にしていたのは少し複雑な避難経路でした。ここに住む学生たちは、日常的にはエレベーターを使いますが、万が一の時は階段が頼りです。この学生会館にはA、B、C、3つの階段室があって、この階段室を使って避難します。ただ、1階まで降りられるのは階段室Aのみで、階段室Bや階段室Cを使っても、最終的には階段室Aに向かう必要があります。

 私は、学生たちに、日常的に「階段室A」を意識してほしいと考えました。

①小さな文字で書かれていた「階段室」の文字を巨大な「」に書き替えました。通る度に」の文字が目に入るようにし階段室」の存在を主張します。

階段室の踊り場の壁をA、B、C、それぞれ別の色に塗り分けました。階段室に入るとすぐにどの階段かがわかります。

③廊下の床の要所要所に、450㎜角にカットした色付きの長尺シート3枚をはめ込みました。床のアクセントのように見えますが、実はこの3色は階段室の位置関係を示しています。無意識に記憶され、さりげなく誘導する仕組みです。

 このデザインは施主には受け入れられましたが…カラーユニバーサルデザインに配慮した配色にしようとすると、インテリア特有の問題に向き合うことになりました。

❶ブルー、オレンジ寄りのピンク、イエローの3色を提案しましたが「ブルーは寒そうで嫌」とあっさり「×」。P型、D型にも見分けられるようにと選んだ色ですが…。確かにブルーは室温が下がったように感じます。

❷踊り場の壁面や防火戸は塗装をしますので色は豊富ですが、床材の方はなかなか思うようになりません。素材の厚み、在庫状況、価格の縛り等々…の条件がついた中で3色が見分けられるようにする。これは根気のいる作業でした。チェックツールの「色のシミュレータ」がまだ登場していない時代です。「デジタルカメラで床材を撮影し、パソコンでシミュレーションする」を繰り返し、塗装色と床材の色を見比べましたが…とても時間がかかり、苦戦したことを思い出します。

 「色のシミュレータ」が開発された今なら、もっとスムーズに作業を進められたかもしれません。それでも、既製品の床材から、デザインに合い、しかもP型、D型にも見分けられる色を見つけ出すのは簡単ではありません。インテリアでは工業製品を扱うことが多い為、色の組み合わせは自由度があるようで意外に不自由なのです。

 完成した階段室も廊下の配色も好評でしたが、私には悔しさが残る苦い記憶となりました。

 

 写真のCは一般色覚者の見え方、PはP型、DはD型の見え方のシミュレーションです。全ての色弱の方がこのように見えるわけではありません。

 

2017/05/30